2022/5/4-5/8のGWに「十字建築のサンプル~住宅外壁のサンプルのサンプルで刑務所のサンプルを作る~」を展示した。
展示したものは
・住宅外壁パンフレット
・住宅外壁のサンプルのサンプル
・十字建築のサンプル①アリストテレス系
・十字建築のサンプル②電気系
・十字建築のサンプル①②の映像
・十字建築のサンプル③音頭系
・十字建築のサンプル③の模型
・十字建築のサンプル(資料編)
ニチハの住宅外壁
ニチハの住宅外壁は、ハウスメーカーの一軒家でよく目にするものだ。この外壁は、耐久性が高い、暑さ・色褪せ・火災・地震に強い、コストパフォーマンスが良い、エコである、そしてスタイリッシュかつスマートである。これは、使う人間にとって、機能的かつ効率的であると言えるだろう。しかし、使う人間ではなく、使われる素材にとっては、どうだろうか。木や石という素材は使われているが、隅々まで加工されている。素材たちは、使ってもらえて喜んでいるのか、不要に加工されて怒っているのか、どうにでもなれと思い諦めているのか、それはどうかわからない。でも想像することはできるだろう。
安全地帯を作ること
住宅外壁というと、家の内と外の境界で、プライベートとパブリックの間を作る。そこで、壁の内側には家族がいて、壁の外側には他人がいる。家の中では私は家族と生活をしている、一方で、外に出れば私は他人と社会の中で共生している。これらを考えるとき、私の安全地帯はどこになるのだろうか。おそらく家になるのだろうか。家は、私にとっての助けを求められる神殿なのか、もしくは家族としての責任を荷負わされる、まるで罪を償う牢獄なのか。ほとんどの場合、家は自分を守ってくれる場所であり、何かあればいつでも帰って来れる。しかし家の中で共に家族と生活する上では、自分の自由をある程度犠牲にしなくてはいけない。さらにひどい所では家族との関係性が歪な形を呈しているところもあり、家族と距離を置いたほうがいいことも多い。そこで、家の外での安全な場所は存在するのだろうか。隣人・友人の家や学校、市役所、保健所、病院、神社、図書館、公園、コンビニなど、逃げ出した行先で安全な場所はあるのだろうか。安全な場所を作るための住宅外壁は、そんな単純なものではない。安全地帯を作ることは、内側を守ることだけでなく、自分の自由を多少犠牲にすること、外側の安全地帯に繋がっていること、そもそも前提として、この世界に安全な場所があることを信じれることが必要だ。これがおそらく「信仰」かもしれない。
十字建築とは
十字は、ギリシャやスイスの国旗、安全第一、ヘルプマーク、日本赤十字社に使われ、また建築においては、大聖堂、教会、牢獄、刑務所、精神科病院、入国管理局にも構造として使われている。それらの建築を、勝手に「十字建築」と呼ぶ。自ら助けを求め、罪を許してもらう教会や大聖堂、罪を償うための牢獄や刑務所、病気を治療するための精神科病院など、これらの建築は、信仰と懺悔、安全と拘留の意味を含んでいる。世界への信仰をもとに安全地帯を作るためには、この「十字建築」がぴったりであると考えた。
刑務所は受刑者が作っていた
小菅刑務所の工事は、収容される受刑者の作業であったという。まさに受刑者が自己の刑を受ける生活空間を自らの手で作っていたということだ。ここでは住宅外壁のサンプルのサンプルを受刑者として考え、その者たちとともに「十字建築(特に刑務所)」のサンプルを作ってみた。
アリストテレスの4元素
ところで、受刑者はどんなことをやることで社会復帰できるのだろうか。私は、人間の実存を揺るがす瞬間の中で、木村敏の言う「自然との一体化」を考えた。自然科学の最古の思想であるギリシャ4元素は、火、水、土、風の4つがすべての物質や生物の源泉と考えられていた。その後、フロイトやユング、バシュラールもこれらの持つ無意識へ至るため道具として用いていた。今回は、住宅外壁のサンプルのサンプルにこの4つの元素を体感してもらうことにした。
アリストテレス系と電気系
ここで、当神殿の屋外で焚火の火、砂場の土、滝の水、空の風を使い、アリストテレス系の住宅外壁のサンプルのサンプルで「十字建築のサンプル①アリストテレス系」を作った。また当神殿の屋内で電子レンジ(火)、冷蔵庫(土)、電子ケトル(水)、ドライヤー(風)で電子系のもので「十字建築のサンプル②電気系」を作った。作品をみればわかるが、自然と機械の違いがわかるような性能の建築サンプルができた。前者は、戦争後のバラック建築を想起させ、後者は濡れた段ボールが乾いたものを想起させた。2021年度の当神殿では毎月1回、3ヵ月ごとに、焚火の会(火)、土興しの会(土)、滝落ちの会(水)、空飛びの会(風)をやっていたので、これはまさに今年の集大成であった。
音頭系
音頭系最期に音頭をとりながら、十字建築のサンプル模型を作ってみた。使用した音頭は「さくら音頭」である。これは松沢病院の盆踊り大会で使われていた「松沢音頭」がこの音頭の替え歌として使われていた。音頭の役割は、作業をしている人を励まし、鼓舞し、活気を与える。ひとつの集合体という空間を作り上げる。また音頭の歌声が、プライベートとパブリックの間の外壁となりうることをを考えた。自転車で爆音の音楽を聴きながら、我を忘れて歌を歌っている人が作り上げている空間と似ていた。物質だけでなく、音までもがその外壁を作り上げる。そしたら、音以外にもにおい、味、存在感、空気感、雰囲気までもが、外壁を作る要素となるのかもしれない。
建築模型
これらの「十字建築のサンプル」は、建築模型である。しかし展示会場で見る建築模型は、建築の嘘であるように思えていた。そもそも本物は現物として建てられるものだから、建築模型は、その建築の小さなサンプルとして、想像しやすいように似せて作っているだけである。これらの建築模型は、施工するための説得する材料であり、曖昧な要素の表現や対話が足りないように感じた。絵を描くときのドローイングみたいなものが足りない。そんなドローイングを今回は試してみたいと思った。
今後のこと
これからさらに「十字建築」について、考察を深めていきたい。そして、信仰と懺悔、安全と拘留における、新しい形の建築・宗教・精神の創造に近づけていきたい。
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